「ぽっかぽか」第54話
「わたしのおうち」

――“我が家”って何だろう、みんなが暮らし、そして帰ってくる場所――
そこは、一体どんなところ?――
(YOU掲載時の口絵リード)

オリジナル初出 YOU 2002年4月15日号・No.8/2002年4月1日発売
単行本収録 コミックス第12巻、文庫第8巻

(2002/12/13加筆修正)

今回は前作からたった3か月で新作リリースです。半年に一度のペースに慣れていると「え、もう?」といい意味でびっくりしました。そしてこの「わたしのおうち」のストーリーは、最近の作風とは一線を画す、とまで言えるかどうかは分かりませんが、重たい描写のない優しさにあふれた内容に仕上がっていました。これだけでも嬉しく、個人的にもおすすめの話です。

最初の数ページで平和な田所家が日常の幸せをかみしめるシーンに始まり、慶彦の会社関係の人(麻美メインの場合、近所関係の人)がゲストとして登場し、その人の影響を受けて我が家を振り返る。……これがここ最近の原作では定番化したパターンで、その意味では今回もよく似た展開で話が進んでいるという点は否めません。
しかし今回は、普通なら寂しさの象徴として描かれるはずの家庭を、とても幸せに描いたという点が「斬新」で、こういう視点はさすがに深見先生だ、と感銘しました。

「ぽっかぽか」はとてもトラディショナルな価値観を持つ作品です。田舎で暮らして夫婦仲睦まじい田所家と、都会で暮らしてケンカの絶えない中村家、という対比もよく描かれますから、普通に読んだ印象では、「ぽっかぽか」のメッセージは文明的、都会的な暮らしとは相容れないもののように思えます。しかし深見先生は、田舎暮らしか都会暮らしかは大きな問題ではなく、幸せとはこれだという見本を私たちにいつも見せてくれます。
都会のマンションに住んで、家族がすれ違いの毎日を送っていたとしても、それ自体は寂しいことではなく、家族の思い一つでこんなに暖かい家庭を作っていられる、という点を提示できたところが、今回の話の特に価値ある点だと思います。

何でも「田舎が良い」「昔が良い」と判断するのも、やはり偏った考え方なのです。そしてその状況自体が人を幸、不幸にするわけではない、ということ。これが今回の話で深見先生が読者に伝えたかったことではないかと思います。

ところで、今回の話では田所家は海にもわりと近いと書いてありましたね。これはたぶん初めて登場した設定だと思います。ドラマ「ぽっかぽか」では、田所家の設定は埼玉県の寄居近辺で、海に近いとは普通言わない場所です。ドラマの影響で何となく原作の田所家も埼玉県にあるように思っていた(^^;)のですが、ちょっとイメージを修正しておきたくなりました。

それと、最後にひと言。「ぬた」って何のことだか分からなくて辞書を引いてしまった人、わたしの他にどのくらいいます?(((((^^;)


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